地方は蘇えるか

                                                                                                                               前地方創生担当大臣 山本幸三

 

 この一年、地方創生担当大臣として全国各地を駆け回りました。
都合46道府県、303箇所の事例を見てきました。茨城県だけが知事選に突入したことから残ってしまいましたが。

 各地を巡っての印象は、日本は本当に多様性に富み魅力が一杯の地域に溢れているということです。
地方の経済も少しずつ元気を取り戻しつつあるという気がします。

 私は、「地方創生とは、地方の平均所得を上げることだ。」と分かり易く定義しました。
そして、その為には、何よりも「自助の精神」が大事だということを訴え続けてきました。
この「自助の精神」こそが、地方創生のカギだと考えております。

 明治維新の頃、日本人は価値観が180度転換して、
どのように生きていったらよいのか迷ってしまったことがあります。
その時、中村正直という学者が明治新政府に願い出て、イギリスに留学させてもらいました。
彼は、「あの小国イギリスが世界を制覇できた秘密を知ることができれば、日本人のヒントになるのではないか。」と考えたのです。
二年の留学期間が終わる直前に、一人の政治家から一冊の本を渡されました。
その本こそ、サミュエル・スマイルズが書いた『セルフ・ヘルプ』。正に、『自助論』という本でした。
中村正直は、「これだ!」と思い、早速翻訳して出版しました。当時日本の人口は3500万人位だったのですが、
100万部以上も売れた大ベストセラーとなりました。当時の日本の知識人は、皆この本を読み、「これで行こう。」と決めたのです。
言っていることは簡単で、「他人に頼ってはいけない。己の奮闘努力でしか途は切り拓けないのだ。」ということです。
トヨタの創始者、豊田佐吉もこの本を愛読し、名古屋のトヨタ産業技術記念館に行くと、
入口にこの本が飾ってあります。私は、地方創生とは、この「自助の精神」を取り戻す精神運動だとも考えています。

 今、多くの地域で「自助の精神」に基づいた取組みが始まっています。
島根県の海士町という離島の漁村があります。人口2400人。
イカやカキが獲れるのですが、かつては鳥取県の境港の市場に出していた為に、安く買い叩かれ、漁民の生活が疲弊していました。
2003年に町長になった山内さんは、何とかしなければならないと、
町の職員と必死で生き残る途を探しました。そこで見つけたのが、CAS(細胞を生かすシステム)という冷却補助装置です。
これまでの急速冷凍器だと水分が凝縮・膨張して肉や魚の細胞を壊す為、味や香が失われていました。
それを磁気で水分が固まらないように配列して急速冷凍すれば、細胞が壊れず味も香も数年経っても変わらないという画期的な装置です。
これを開発したのが大和田さんという社長で、大変な苦労の末に完成させました。
海士町の山内さん達は、これに全てを賭けたのです。これを購入する為に、自分達の給料を三割も五割も削って資金を捻出しました。
問題は販路だったのですが、大和田社長の協力もあって東京の居酒屋チェーンと契約でき、
安定した価格で漁産物を出荷できるようになりました。年収1000万を超える漁民も出てきて、漁民の生活が安定しました。

次に山内町長が考えたのが教育です。島に一つの高校が存続の危機にありました。
これを救うには、本土からの島留学生を集めなくてはなりません。
そこで町は、町営の塾を作り、高校生の学力のレベルアップと子供達に過疎の問題を考えさせる独特の教育システムを導入しました。
そのお蔭で、素晴しい進学校が誕生し、今では多くの留学生が本土から集まってきています。

 この海士町のような例が全国に広がれば、日本の地方は確実に蘇えることができるものと確信しています。